私は以前約6年間ほどシェルター勤務をしていました。DV被害を受けた女性や子供を一時的に収容する施設です。そこにはさまざまな過酷なドラマのような内容のことが現実に起きていることを目の当たりにしました。これが現実なのかと聞いていて心が締め付けられそうになることが何度もありました。薬物、多重人格、世の中では生きづらい女性も収容されています。そんな特殊な世界に身を置いた私が体験し、思ったことを簡単ですがお話したいと思います。
そこでの子供達の生活は、学習プログラムもあり、勉強の遅れがないように学習室で授業を受けます。乳幼児は保育室を利用し、保育士がその時間保育をして子供の行動観察をします。心理的なアプローチも精神科の先生を通じて行ったりします。母親はというと相談員に話しをして、母親の境遇や出来事、心の状態を聞き取ります。相談員は母子の様子を観察して福祉に繋げていくという流れです。
ある日の学習室での出来事です。当時、そこに入ってきた小学生の男の子2人はお互いのことを、強い口調で罵り合ったり、手が出たりと、勉強どころではありませんでした。他の子もいた中でしたが、そんな二人の仲裁に時間を要してる状態でした。その光景は親の喧嘩する様子を見て育ち 自己肯定感はズタズタで、当然学習内容なんて頭に入るわけもなく、相性の合わない相手への苛立ちが心の中を占めて日々イライラは加速するばかり。居室に戻ってからそのうちの1人の子は、母親の顔を見て「俺なんかいなければいいだろ!」と、窓から飛び降りようとしたのです。母親もそんな我が子に疲弊しきっていました。
ここにいるのは、約2週間。これからの親子関係の修復や、メンタルのケアなど課題はたくさんです。母子ともにここでの生活が、考えるきっかけとなり、母親によっては前に進む人はまだいいのですその一方「私が悪かった私がちゃんとしていればこんなことにならなかった、、」と考える人もいます。これが一番危なくて、多くの人が陥りやすい感情がでてきます。戻ることを強く希望したり、目を盗んでいなくなったりしていました。しかしまた同じ目にあい、今度は、命を落とす人すらいます。そこまでじゃなくても母親の負傷で、子は児童相談所へと。子供が益々負の方向に向かう率は高いです。体だけでなく心のDVも同じことです。子供は親を選んで生まれてくる訳でなく、運命と言ったらそれまででしょうが、保護者同士のボタンの掛け違いで、子供が犠牲になってしまうことはなんとか避けたいものです。子供が全てに対して自分を否定し、親や誰かを否定して生きて行くのは辛いことです。大人が子供の前で、怒鳴ったり両親が喧嘩するだけでも不安になります。たとえそれが自分に向けられているわけでなくてもです。怒鳴り声や暴力を受けたり見たりした子供の脳をCTで見ると明らかに萎縮しているのがわかるそうです。子供にとって愛情もですが、まずは安全と安心が情緒の安定につながるのではないかと思います。安心できる環境があってこそ親も愛情を注げるし、子供の心は安定し、自分を愛せるようになるのではないでしょうか?
私たち保育士も大切な子供たちを未来の幸せに繋げていくこと、そして逞しく生き抜いていく力をつけるため、その小さな一つ一つを日々の保育の中で紡いでいきたいと思います。子供の一生での一番大事なこの時期、太い根っこを保護者の方と一緒に育てていけたらと思っています。
夏目坂分園 主任 梅野千賀子