2021年10月
先日、「ズッコケ三人組シリーズ」の作者である那須正幹さんの訃報に触れました。小学生の頃、夢中になって読んだのを思い出しました。
その中でトラウマ的に覚えているのは「ズッコケ山賊修行中」で、親戚のお兄さんと一緒にドライブ中に迷子になり、人里離れた山で土ぐも様を信仰して暮らすくらやみ族にさらわれて、脱出に成功するも助けになるはずの駐在さんも仲間だった…という展開に夜も寝られなくなった覚えがあります。
物語の最後に一緒にさらわれたお兄さんは山に残る決意をすることが、子ども心にも後味が悪かったのですが、その後オウム事件や北朝鮮の拉致事件に触れる中で、あのお兄さんがなぜ戻らなかったのかを自分なりにも考えることになりました。
那須さんのインタビューの中で、小さな読者たちの心をつかんだ秘訣は?と聞かれて、「子どもをみくびらないことですね」という答えはとても印象的でした。
「ズッコケ株式会社」では、釣り人にお弁当を売ることを思いつき、資金集めで株券を発行して株式会社を作ります。途中で破綻の危機を迎えますが、別事業の商機を逃さずに乗り越えていく様子は、現在のアントレプレナーシップにつながります。
「ズッコケ事件記者」では壁新聞の記事を作るのに、ふたつのケーキ屋さんにいい顔をしてしまって、いわゆるスポンサー問題に頭を抱えたり、ウケを良くしようとプライバシー侵害になりかねない記事をあげようとしたりする中で、真実を記事にする難しさや大切さというジャーナリズムの問題にもつながっていきます。
また、児童文学の中では珍しく、後味悪く終わったり、解決せずに終わることも多くあったように思います。子どもたちにその先の展開を考えられる余白を残していたのではないでしょうか。
同じこの社会を生きる子どもたちに、大人が思い描く理想像を求めるのではなく、社会の構造や問題をわかりやすくストーリーに落として伝え、それに対して子どもたちがどう考え、どう決断していくのかということを大切にしていたのではと思います。
難しいから子どもには分からないだろうではなく、子どもの疑問や悩みに素直に、同じ土俵で向き合っていくということが、「みくびらない」という姿勢なのだと思います。
フロンティアキッズ上馬 施設長 伊藤 由子