2022年8月
8月は広島・長崎の原爆投下の日、終戦の日があり、平和について戦争の悲惨さについて話す機会が増える時期ではないでしょうか。今回「教育とは平和のための武器である」というモンテッソーリの言葉について考えていきたいと思います。
イタリアの女医であるマリア・モンテッソーリがイタリア最初の「子どもの家」の指導者であることはご存知の方も多いかと思います。
1900年代初頭のイタリアでは出稼ぎのために両親が家にいない子どもたちが多く、スラムができていった歴史があります。そんなスラム街の子どもたちのために開設されたのが「子どもの家」であり、そこには現在のような“教具”はありませんでした。
この「子どもの家」は清潔(顔を洗う、髪をとかす)、秩序(物を置く場所、歩き方)、落ち着き(静かに行動する)、会話(言葉で気持ちを伝える)など日常生活を送る上で必要なことを訓練する場でした。大人から多くの干渉は受けずに、満足感の中でそれらの活動に取り組むことで、静粛さ、自発的な活発さ、集中力、主体性や独立性などを獲得していきます。そして、その「子どもの家」で「読み書きの爆発」が起こります。
日常生活の練習を自由にそして整えられた環境の中で取り組んでいた子どもたちは次第に文字へと興味を広げ、自然と自ら吸収していく姿があったそうです。その姿を間近で観察していたモンテッソーリは子どもたちの知りたい思いからくる吸収力に驚かされたとあります。
ーー“平和”とは単に“戦争がない”ことだけが“平和”なのでしょうか? 子どもたちがやりたい知りたいと思った時、すぐ行動に移し、集中できる環境があり、自由に活動を選び進めることができる。それも“平和”であるとモンテッソーリは教えてくれています。
では、日本は“平和”でしょうか。誰でも、特に子どもたちが自由に学ぶことのできる環境があるでしょうか。現在日本の子どもの貧困率は13%を超え、3食まともに食べられない現状があり、ヤングケアラーの問題も深刻化しています。
保育の中で「みんなが楽しいと思うのはどんな時?」と尋ねたことがあります。子どもたちは『友達と保育園で遊ぶこと』『お仕事をすること』『お絵描きや絵本を読むこと』『外で遊ぶこと』など他にもたくさん教えてくれました。「もし平和でなくなったら、みんなが今言ってくれた楽しいことができなくなってしまうかもしれないんだ」と伝えた時のハッとした表情がとても印象的で、心に残っています。
「教育とは平和のための武器である」というモンテッソーリの言葉は、次世代を担う子どもたちが平和を築いてくれるだろうという希望の言葉であると同時に、大人たちがいかに子どもたちを理解し気持ちを受け止められるか、次世代の子どもたちに“平和”をもたらすことができるか……大人たちの努力も求められているように思います。
フロンティアキッズ曙橋分園 副主任 井上千秋